笛吹川河畔をめぐって…その3
水害の原因は山林の荒廃
…恩賜県有林の歴史を調べる
 中央線の電車が甲府駅に近づくと,駅の南側にある甲府城(舞鶴城)の高い石垣の上に一本の石の塔が立っているのが見える。以前,電車に乗っていたら,山梨県民と思われる乗客の一人が,他県からやって来たらしい旅行客に「あれが,山梨で有名な水晶の塔ですよ」なんて説明していて,「困ったものだ」と思ったことがある。この塔,先端は尖っているので水晶に似ていないこともないが,良く見ると,山梨特産 の水晶が六角柱状なのに対 して,四角柱状で明らかに 違っていることが分かる。

 甲府城(舞鶴城)にそびえ立つ「謝恩碑」,
 「謝恩碑」の字は山県有朋が書いている

 この古代エジプトのオベリスクを形どって作られた石柱は,「謝恩碑」と呼ばれ,明治44年3月11日 に,山梨県内にあった皇室の御料林が県に下賜されたことを記念して,大正年間に立てられたもので,台座の部分も加えた総高は30.3m。東山梨郡神金村(現在の塩山市)から切り出された花崗岩で作られ,碑身部分だけでも18.2mもある巨大なものだ。この時に皇室から下賜された山林は,恩賜県有財産(恩賜林)と呼ばれ,山梨県内の林野総面積34万haの半分に当たる16万4千haにも及んでいる。
 恩賜林の元になった皇室御料林とは,いったい何なのだろう。なぜ,明治末期に県に下賜されたのだろう。明治40年の水害をキーにして,山梨の山林の歴史的変遷を辿ってみよう。
 山梨県内の恩賜県有林の分布(地図の斜線部分)
        …山梨県恩賜県有財産御下賜八十周年記念誌より作成

 甲府盆地の周囲を取り囲む山々は,いずれも急峻で,これらの山々に源を発して盆地に流れ込む川は,急勾配で激しい流れになっている。しかも,これらの山々の多くは,風化しやすい花崗岩,花崗閃緑岩,第三紀層などから出来ており,台風などの影響を受け,山岳部に多量の降雨があれば,たちまち土砂崩れが起こり,多量の土砂を含んだ濁流が盆地を襲って水害をもたらすことになる。
 山梨の山々は,このような特性を持つため,武田氏以来,代々の治世家は水害防御のための「川除林(かわよけりん)」を造成したのを始めとして,水源かん養,土砂流失防止などのために,樹木の濫伐や林野への火入れを禁止するなど,厳しい林政をしいて山林の保護に努めていた。ところが,徳川幕府が崩壊して明治維新政府に政権が交替する前後になると,林政がいい加減になって山林の荒廃がすすみ,水害が頻発するようになった。

 明治40年の水害での土砂崩壊地の分布
     …「山梨県総合共同研究」山梨県師範(女子師範)学校共編
 笛吹川沿岸を襲った水害を調べてみると享和2年(1802年)〜明治元年(1868年)までは,65年間で10回が記録されているのに対して,明治に入ってからは,明治8年〜明治44年までの35年間で13回を記録していることからも,この事は明らかだ。   
 徳川政権下では,所有権が確定できず,付近の住民が燃料,肥料,用材などの生活必需品を採取していた山林を「入会山」とし,幕府が保護・取締を行うとともに,これらの山林に入会権を持つ村々でも,「入会山」に自由に入山し,草木を採取する代わりに,「村申し合わせ」などをして,入会山が荒廃しないよう保護に努めていた。江戸時代には,山梨県の総面積の4分の3を占める林野の47%は,このような「入会山」だった。ところが,明治維新政府は,これら所有権の確定出来ない「入会山」を「官有地」にし,さらに,明治22年には,皇室の財産を確保する目的で「御料地」に編入してしまった。こうなると,「入会山」に対する一連の措置に対する不満から,愛林の気持は失われ,さらに,林政の緩みが加わって,木の盗伐,野火,放火などが頻発するようになる。

 この結果として,明治42年の調査では,林野面積の26%に相当する 9万haにも及ぶ林地が荒廃している事が明らかになった。荒廃した林地は,十分な保水力を持てず,一旦豪雨にあえば,山腹の崩壊などで多量の土砂を河川に流し込み,下流域に大きな被害を及ぼした。このような事態を打開するため,山梨県は,御料地を県に還付することを再三にわたって請願したが,なかなか実現しなかった。しかし,明治40年,43年と連続して起こった大水害の被害で疲弊した山梨県民を助けると言う名目で,明治44年になって,県下の入会御料地の全てを無償で下賜すると言う形で実現した。この後は,治山・治水対策に巨額の資金が投入されるようになり,明治期のような大水害の頻発は見られなくなったが,日常の生活が森林から全く切り離されてしまった感のある昨今では,明治期とは違った意味で林地の荒廃が進んでいる。
 恩賜林の歴史を調べて,かつてのような巨大水害を繰り返さないためにも,私たちは,もっと上流の山林に関心を持って林を守っていかなければならないとの思いを深くした。
タケニグサ    竹似草  Macleya cordata   [けし科]
中庭にあるプールの周囲を囲んでいるフェンスの北側隙間から,大きな葉をつけた巨大な草が何株も生え,茎の先端に白っぽい小さな花を沢山付けているのに気がついた人も多いことだろう。
 この草,タケニグサといって,中空になっている茎や葉を折ると,中から手に付けるとかぶれたりする黄褐色の汁が出てくる有毒植物としても知られている。
 全体の形が竹に似ているところから,竹似草という名前が付けられている。

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